静電容量無接点方式キーボード HHKB HYBRID Type-S レビュー
はじめに
僕はVimユーザー(VS CodeにVim拡張機能を導入)であるため、本記事には多少の偏りがあるかもしれない。キーボードの好みは人それぞれ異なるため、参考程度に読んでもらいたい。
今年の2月、ほぼ一日中キーボードを叩いてタイピングやコーディングをしていた日があった。当時はメカニカルキーボード(FILCO MINILA Air 茶軸)を使っていたのだが、指がかなり疲れてしまい、キーボードを叩く力が入らないような感覚に陥った。
そこでこの機会に、キーボード界の最高峰であり、エンジニアの間でも多くの人が憧れるキーボード「HHKB」を試してみることにした。購入してから現在まで非常に満足しており、ここで使用感をシェアしたいと思う。この記事ではHHKBのレビューだけでなく、静電容量無接点方式キーボードの仕組みについても同時に解説する。
キーボードの分類
まずはキーボードの種類を簡単に紹介する。
メンブレンキーボード

家電量販店などで数百円から千数百円程度で手に入るキーボードで、キーボードの中で最も安価な設計だ。キーを押したときに導電ラバーが回路基板に接触して通電し、キーボード内部のマイコンが変化を検知する。手軽ではあるものの、ラバーシートは長期間使うと弾性を失い、複数キーの同時押し検知も狂いやすいため、長時間キーボードを使うワーカーにとっては必ずしも最適な選択肢とは言えない。
メカニカルキーボード

メカニカルキーボードの仕組みはメンブレンと似ており、どちらもキーを押して回路を通電させ、マイコンにキー入力を検知させる。ただしメカニカルキーボードは、スプリング、金属板、キースイッチの軸(ステム)で構成されており、キーを押した際に2枚の金属板が接触して通電する。この機械的な仕組みは軸の違いによって青軸、赤軸、茶軸、黒軸などに分かれ、それぞれ打鍵感が異なる。また、スプリングがあるためしっかりとした反発感(フィードバック感)が得られる。
静電容量無接点方式キーボード
そして本日の主役、静電容量無接点方式キーボードだ。

静電容量無接点方式キーボードの原理は、静電容量の変化によってキーが押されたかどうかを検知するというものだ。平行に向かい合った2枚の電極板を配置すると、この電極板の間に電荷を蓄える能力が生まれる。この2枚の電極板に適切な電圧をかければ充電できる。静電容量の大きさは電極間の距離に反比例し、距離が近いほど容量が大きくなる。容量が大きくなれば、そこにかかる電圧も大きくなる。
マイコンはADC(Analog to Digital Converter)機能を使って電圧の変化を監視し、電圧が一定の閾値を超えたときにキーが押されたと判定する。ここで特に強調しておきたいのは、マイコンが直接監視しているのは静電容量の変化そのものではなく、電圧の変化だという点だ。
静電容量無接点方式キーボードと他のキーボードとの最大の違いは、物理的な接点が一切なく、回路が常時通電状態にあることだ。接点がないためパーツの摩耗がなく、打鍵音が静かで、製品寿命が長く、物理接点特有の引っかかり感がない。
ここで強調しておきたいのは、通電の原理そのものはキーボードの打鍵感に影響を与えず、打鍵感を決める要因はスプリングやシリコンラバーの設計にあるということだ。そのため静電容量無接点方式であっても、メーカーの設計次第で様々な打鍵感を作り出すことができる。
なぜ静電容量無接点方式キーボードは高いのか
次に、なぜ静電容量無接点方式キーボードがこれほど高価なのかについて話そう。僕が考える主な理由は「検知方式の本質的な違い」と「製造工程」の2点だ。
検知方式の本質的な違い
最大の理由は先ほど挙げた原理の通りだ。一般的なキーボードは回路が通電したかどうかを検知するだけでよいが、静電容量方式キーボードはキーが押されたかを判定するために連続的な電圧値の変化を監視しなければならず、回路設計やファームウェア設計がより複雑になる。
さらに、静電容量方式キーボードの電極板が持つ静電容量値はおよそ数pF(F)程度と極めて小さく、ノイズの干渉を受けやすい。誤判定を防ぐためにいかにノイズを除去するかという点にも、多くの工夫が必要とされる。
製造工程
静電容量無接点方式キーボードの製造工程は、メカニカルやメンブレンに比べてはるかに複雑だ。すべてのキー位置で静電容量値がほぼ均一になるように保たなければならず、回路基板の設計にもより多くの労力がかかる。以下の動画の3分42秒あたりで、HHKBの内部構造を見ることができる。
(余談だが、キーボードの打鍵感はこの内部にあるスプリングとラバーによるものだ)
以上の理由から、静電容量無接点方式キーボードを製造する企業は少なく、価格も総じて高価になり、結果としてターゲット層も狭くなってしまう。
HHKBを例にとると、現在の最高峰モデルであるHHKB Professional HYBRID Type-Sは約35,200円(2021年のデータ、台湾ドル換算で約9,000元)もする。だが、優れたキーボードは何年も使える。同僚の中にはキーボードが黄ばむほど何十年も使い続けている人さえいる。長期的な視点で見れば、この価格は決して高くはなく、むしろ投資なのだ!
現在キーボード界で有名なのはRealforceとHHKBだが、最近は中国ブランドのNiZもかなり人気を集めており、価格も比較的安価だ。
HHKBは台湾市場では比較的小規模だが、日本での知名度は非常に高い。僕が現在勤めている会社だけでも日常的にHHKBを使っている人が100人以上おり、2台持ちしているユーザーも珍しくない。
HHKB (Happy Hacking Keyboard)
HHKBの正式名称はHappy Hacking Keyboardといい、元々は東京大学名誉教授の和田英一氏とPFU研究所が共同で設計したものだ。1996年に最初のバージョンが登場し、2021年で25周年を迎えた。
HHKBに関して最も有名な言葉は、HHKBの生みの親である和田先生のこの言葉だろう。
アメリカ西部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いで往く。馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。 いまやパソコンは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。
PFUのウェブサイトにはPlease Pay Your Attention to the Keyboard Layoutという招待論文も掲載されており、HHKBのレイアウトがなぜ一般的なキーボード配列と異なるのかが解説されている。ぜひ読んでみてほしい!
HHKB のキー配列
HHKBは元々プログラミングを行う開発者向けに設計されたため、多くのキー配置がコーディング効率の最適化を主眼に置いている。開発者でなくても配列に慣れれば使いこなせるはずだが、開発者のほうがこの配列の恩恵をより強く実感できるだろう。

HHKBのキー設計はミニマリズムを追求しており、不要なキーをすべて削ぎ落とした結果、キーの数はわずか59キーしかない。また、この画像からもHHKBと他のキーボード配列との違いがはっきりと見て取れる。
① Tab と CapsLock が同じ位置に配置されている
CapsLockは一般的な開発作業ではそれほど頻繁に使われない(大文字を入力する際は通常Shiftキーを直接押す)にもかかわらず、かなり重要なポジションを占めている。そのためHHKBの配列ではCapsLockが省略され、Tabと同じ位置に配置されている。Fn + Tabを押すことでCapsLockと同等の動作になる。
Macユーザーにとっては少々不便かもしれない。Macユーザーは入力ソースの切り替えにCapsLockを使うことが多いためだ(仕事で中国語しか入力しない場合を除く)。
① Ctrl の位置
Ctrlキーが「A」の左隣にある。これには少し慣れが必要だが、慣れてしまうとこの設計がいかに素晴らしいかに気づく。小指を大きく動かす必要がなくなり、非常に快適だ。Vimを使う場合、Ctrl+F、Ctrl+B、Ctrl+Wなどのナビゲーションが極めて快適になり、ターミナル操作時もCtrl+Cでプロセスを終了させるのが非常に楽になる。
② 矢印キー(方向キー)がない
HHKBには独立した矢印キーがない! 上下左右を入力したい場合は、Fnキーと矢印が割り当てられたキーを同時に押すか、ソフトウェアで別途キーマッピングを行う必要がある。キーボードの矢印キーを使ってゲームをする場合は、調整が必要になる。僕は小指でFnキーを押さえながら上下左右に移動しているが、これに慣れるのにも少し時間がかかった。
コーディングでカーソル移動に矢印キーを多用する人にとっては少し辛いかもしれない。小指でFnキーを押さえ続けると疲れやすいためだ。これが僕がVimを使い始めたきっかけでもあり、今ではカーソル移動のほとんどをhjklで行っている。
② Enter の上に DELETE がある
一般的なキーボードレイアウトでは、Enterキーの上にはバックスラッシュ(\)がある。しかしHHKBでは、ここがDELETE(またはBackspace)に変更されている。最も実感できるのは、Backspaceを押す際の手指の移動距離が短くなったことだ。
③ \ と ` の位置
HHKBでは、この2つのキーがDeleteキーの上に配置されている。最初は少し戸惑うかもしれないが、慣れてしまえばそれほど気にならない。そもそもこの2つのキーの使用頻度自体がそこまで高くないからだ。
HHKBの配列に慣れて最も良かった点は、両手の移動範囲が明らかに狭くなったことだ。長時間キーボードを使う人間にとって最も効率的なのは、キーボード上を素早く移動しつつ、手の移動距離を極力減らすことだ。長時間のタイピングでも疲労感が格段に少なくなった。
打鍵感
メカニカルキーボードの感触に慣れている人にとって、静電容量無接点方式の打鍵感は最初はかなり奇妙に感じられたり、受け入れがたく感じたりするかもしれない。無接点構造であるためクリック感がそれほど強くなく、スイッチのカチッとした音もないため、メカニカルキーボードとは打鍵感が大きく異なる。購入前には友人に借りてみるか、店頭で試し打ちしてみることをおすすめする。結局のところ、打鍵感の好みは自分自身にしか分からないからだ。
メリット
長時間の使用に適している
静電容量無接点方式のキーボードは全般的にキー荷重が軽めで、長時間タイピングやコーディングをする人に向いている。僕自身も以前メカニカルキーボードで一日中タイピングした後に指に著しい疲労を感じたことが、HHKBを試してみようと決めたきっかけだった。
純粋な打鍵感だけで言えば、メカニカルキーボードのほうが好みだという人もいると思うが、HHKBの打鍵感にはまた別の魅力がある。デスクの上に置いてあるだけで文字を打ちたくなる魔力を持っているのだ。
持ち運びがしやすい
現在使っているモデルの重量は540g、サイズは30cm x 10cmとコンパクトで、タブレットやノートパソコンと一緒に持ち歩くのに最適だ。
独特で合理的なキー配列
最初は慣れが必要なものの、HHKBのキー配列に慣れてしまうとコーディングが格段に快適になる。また、矢印キーの使用を減らすためにVimの操作に慣れるきっかけになったのも嬉しい副産物だった。
デメリット
独特なキーキャップ
一般的なメカニカルキーボードのキーキャップは主にCherry MX互換の軸を採用しているが、HHKBのキーキャップは東プレ製であり、互換性がない。

好みのキーキャップに交換したい場合、取り扱い店舗を探すのに苦労するし、選択肢もかなり少ない。自宅に3Dプリンターがあれば自作してみるのも手かもしれないが、クオリティには差が出てしまう。
価格が高い
これほど高価格なキーボードは、なかなか気軽に購入できるものではない。キーボード本体が高いだけでなく、各種アクセサリの価格も安くない。キーボードが届いて初めて、HHKBにはキーボードルーフ(カバー)が付属しておらず、純正ルーフを購入するには別途4,400円かかることを知った。パームレストもAmazonなどで探せば安いものが見つかるかもしれないが、公式のウッドパームレストを使うならこれも4,400円かかる。本体とアクセサリを一式揃えようとすると、財布にかなりの大打撃を受けることになる。
電池交換が必要
僕は電源を切らない習慣があるのだが、そのせいもあってかバッテリーの消費がやや早い。毎日8〜10時間ほど使用する環境で、およそ1ヶ月に1回電池を交換する必要がある。
特殊なキー配列による弊害
一度HHKBの配列に慣れてしまうと、他人のキーボードを急遽操作しなければならないときに非常に戸惑い、適応に時間がかかる。さらにHHKBには独立したF1〜F12キーがなく、Fnキーと組み合わせて押す必要があるため、F1〜F12をショートカットキーとして頻繁に使うユーザーにとっては大きなストレスになるだろう。僕はコンパクトなキーボードが好きなので、それほど大きな問題ではないが。
台湾では入手しにくい
台湾にはHHKBキーボードを直接購入できる実店舗がほぼなく、代行業者を利用するかAmazon.co.jpからの転送サービス等を使うしかない(現在は台湾への直送に対応していないらしい?)。そのため、台湾ではHHKBに関する議論が比較的少ない。現在最も手軽で経済的な方法は、日本旅行のついでに購入して持ち帰ることだ。ただし、一般的な量販店ではHHKBが店頭に並んでいないことも多いため、実店舗で試してみたい場合はHHKBの公式サイトを参照してほしい。現在は東京、大阪、名古屋などにショールームがある。
HHKB モデル紹介
現在HHKBシリーズには主に3つのモデルがある。HHKB Professional HYBRID Type-S、HHKB Professional HYBRID、HHKB Professional Classicだ。各モデルそれぞれ「墨」と「白」の2色があり、刻印ありと無刻印のバージョンを選択できる。以下に各モデルの特徴を簡単に紹介する。
Classic
有線接続専用のHHKBキーボードで、HHKBのラインナップの中で最も安価なモデルだ。
HYBRID
HYBRIDはBluetooth接続と有線接続の両方に対応しているモデルだ。
僕が使っているHHKB Professional HYBRID Type-Sのように、ワイヤレスと有線を切り替えて使える。最大4台のBluetoothデバイスとペアリングできるため、複数デバイスを切り替えて使うシーンに最適だ。例えば、オフィスではPCに、外出先ではノートPCに、帰宅後は自宅のPCに接続するといった使い分けが、Fn + Ctrl + 数字キーを押すだけで簡単に切り替えられるので非常に便利だ。
ただし、給電には単3形乾電池を使用する必要があり、充電機能は備わっていない。エネループなどの充電池で代用できるとはいえ、ユーザーにとっては少々手間に感じられるかもしれない。また、電池の消費速度もやや早いと感じており、約1ヶ月に1回のペースで電池交換が必要だ。これは僕が無精をして電源を切り忘れているせいもあるかもしれない。

HYBRID Type-S
Type-Sは静音モデルを指す。HYBRIDのBluetoothと有線接続機能に加え、HYBRID通常版よりもキー打鍵音が静かになっている(完全に無音というわけではない)。音の違いについては、以下のYouTube動画(10:12あたり)が参考になる。
PFUで購入する場合は、キーボードの配列を必ず英語配列にすること! 誤って日本語配列を選ばないよう注意が必要だ。両者の配列は大きく異なる。
おわりに
最後に改めて強調しておきたいのは、打鍵感は極めて主観的なものだということだ。僕自身はHHKBの打鍵感が非常に気に入っているが、肌に合わないと感じる人も必ずいるはずだ。特にメカニカルキーボードを使ってきた人にとっては、引っかかり感(タクタイル感)のないキータッチがもたらす打鍵感の差は想像以上に大きい。そのため、やはり実際に試打してから購入を決めることをおすすめする。歴史的な円安の今こそ、手に入れる絶好のチャンスかもしれない。
キーボード探しの迷宮の中で、読者のみんなが最高の相棒と出会えることを願っている。
その他の参考リソース
- 【Twitter共有】日本のドラマにも登場するかっこいいHHKB、日本のATMキーボードも静電容量式?! ドラマ『わたし、定時で帰ります。』で使用されたキーボードがHHKBであることや、日本のセブン銀行ATMのキーボードも静電容量無接点方式であることについて触れられている。
- HHKB Pro2 キーボード使用感レビュー 中国語で書かれた数少ないHHKBレビュー記事(ただしモデルはかなり以前のもの)。
その他、台湾PTT掲示板の Key_Mou_Pad 板でも中国語の情報を見つけることができる。
日本語のリソースはさらに豊富だ:
- HHKB公式サイトのインタビュー・記事 HHKBは著名なユーザーへの定期的なインタビュー記事を掲載している。
- HHKB 誕生の物語
- 散財TV - HHKB HYBRID Type-S レビュー
- トバログ HHKB HYBRID Type-S と前モデルの比較
また、HHKBの素晴らしい点として公式Twitterアカウントの運用が挙げられる。ほぼ毎日のように他のHHKBユーザーと交流してエンゲージメントを高めており、トレンドを巧みに取り入れながらHHKBの話題へと繋げる発信力も見事だ。
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