11. インポスター症候群(Imposter Syndrome)
# キャリア回顧今日はついに、ソフトウェア開発ではよく耳にするのに、つい無意識に避けてしまう話題、インポスター症候群について話そうと思う。
インポスター症候群、別名インポスター・シンドロームとは、ある程度の成果を得たあとでも、自分がその成功に値するとはどうしても信じられない状態のことだ。
周囲からの評価や称賛が絶えなくても、この心理現象に苦しむ人はしばしば自己疑念にさいなまれ、自分は「なりすまし」だと感じ、本当の実力不足が暴かれることを恐れる。
この現象は、ソフトウェア開発や学術界などの分野で特によく見られる。優秀な開発者の多くは、スキルや成果を手に入れても、自分に本当に必要な能力があるのかを疑い続け、自分の成功はただ運がよかっただけで、本当の実力を反映していないのだと感じてしまう。
僕がよく見ている HTTP203 で、元Googleエンジニア2人がインポスター症候群について語っていたとき、Google のエンジニアでさえこう考えるのか、と気づかされた。
僕の経験
1.
僕がフロントエンド開発を始めたばかりのころ、ある会社でインターンをしたことがある。僕は本当に経験が少なく、後から入ってきたインターンのほうが、すでにかなり深い開発力を持っているほどだった。当時はいつも、なぜ会社は僕みたいな、当時は実力がなくてオタクっぽさだけが強い人間を採用したんだろう、と思っていた。
でも、もっと強くなりたいという気持ちがあったし、当時の会社も育てようとしてくれたので、夏休みの2か月で会社の補助が出るオンライン講座を使って JavaScript の基礎を学び、Sublime のショートカット大全も覚えた。後半には Ruby On Rails を学んで会社の副産物の開発をし、そのあと一緒に本開発に加わった。
2.
次の会社に転職してから、僕のインポスター症候群はさらに強くなった。
そこにいる開発者はみな、かなり深い開発経験を持っていた。置いていかれないように、僕は仕事終わりに技術記事を読むようになり、自分のブログも運営した。自分はまだ足りないとよく感じていたし、インポスター症候群の典型的な症状どおり、実力不足が見抜かれるのではないかと怖れていた。
3.
日本に来てから、僕は自分の日本語能力を中の上くらいだと思っていたけれど、ここに来て初めて、実際にはただの平均レベルで、日本語を僕より短い期間で学び、僕よりうまく話す外国人がたくさんいると知った。
開発面でも、もちろん人数が多ければ実力にばらつきがあるのは当然だが、僕は当時のチームで実力の強い開発者と一緒に仕事をする幸運に恵まれた。その結果、また毎日のように自分は十分でないのではないかと疑うループに陥った。
僕のインポスター症候群は文章にも表れていた。自分の考えを断定して書くことができず、確信がないときは「たぶん」「僕はこう思う」を付け加える。いかにも謙虚に見えるけれど、実際には無意識に防御していたのだ。
4.
僕は重要なモジュールの設計と実装を任された。当時はフロントエンド開発が中心だったが、この設計はバックエンドに大きく関わり、さらに既存プロジェクトのアーキテクチャを理解する必要があった。
仕事を任された時点で、僕の技術背景と経験なら一つのアーキテクチャを設計できるはずだった。けれど、チームの他のメンバーが提案を出すのを見るたびに、僕はしばしば自分を疑い始め、頭の中は「彼らのほうが僕より能力がある」「実は僕がそこまで頭が良くないってばれるんじゃないか」という考えでいっぱいになった。
克服
Denny は X(Twitter)でこの件について触れていた。彼は、本当に不安の原因になっているのは「どうしてあいつはたいしてすごくもないのに、僕よりうまくやれているんだろう?」という感情なのではないか、と考えていた。
僕はかなり長いあいだ考えた。自分は足りない、という感覚は言い訳なのではないか。本当の原因は Denny の言うとおり、嫉妬なのではないか。
僕は、その一部は、まだ投資対効果の幻想に気づいていないあいだに、確かに「どうしてあいつはたいしてすごくもないのに、僕よりうまくやれているんだろう?」という気持ちが生まれるからだと思う。
だから解決法もシンプルだ。比較する心を手放し、誰もが独立した個人だと理解することだ。
- 会社が僕を雇った時点で、すでに僕には十分な能力があると判断したということだ。残りは同僚と会社の問題だ
- 投資対効果の幻想に気づくこと。投入と成果は必ずしも釣り合わない
- 僕たちが見られるのは相手の一部だけで、これまでの人生までは見えない
- 相手がすごいなら、友達になってたくさん教えを請えばいい
- 必ずしもすごくなければ友達になれないわけではない
前に、焦りの原因は「どうしてあいつはたいしてすごくもないのに、僕よりうまくやれているんだろう?」という感情かもしれないと書いたけれど、それ以外にも見逃せない要因があると思う。特に華人家庭の環境で育つと、競争の激しさ、友達や家族から常に否定されること、成績だけを唯一の成功指標とする価値観に向き合わされることがある。長い目で見ると、そりゃ自己疑念にもなりやすい。
期待値を下げる
Aim lower で解決できないことはない
もう一つの有効な克服方法は、期待値を下げることだ。周りが100点を求めるなら、期待を60点に置く。これは努力から逃げることではなく、人生を楽しくする鍵だ。
自分の能力に対する過度な要求をできるだけ避け、「完璧は存在しない」という現実を受け入れる。そうすれば、自分の足りない部分をより寛容に見られるようになり、段階的にスキルを伸ばしていける。成長はたいてい過程であり、自分の不完全さを受け入れることが成功への第一歩だ。
キャリアの中で長く揉まれていると、健康と幸福以上に大事なものはないと、だんだんわかってくる。本当にそうだ。そして期待値を下げることは、有効な解決法だ。
自分のメンタルと健康をきちんと整えてこそ、80000時間にも及ぶキャリアをよりよく、より遠くまで歩いていける。
結び
インポスター症候群はキャリアの中でよく出会う現象なのに、あまり語られていないように思う。自分が足りないと認めるのは難しいし、他人の幸せを心から祝うのも難しい。
この記事では僕自身の話をいくつか共有した。迷っている人や、似たような症状に悩んでいる人の助けに少しでもなればうれしい。インポスター症候群への対処法で、ほかにいい方法があればあるだろうか。ぜひ me@kalan.dev までメールで教えてほしい。