ライブ配信はなぜ人気なのか?
はじめに
僕の本業はソフトウェアエンジニアだ。自分自身はそこまで頻繁にライブ配信を見るわけではないが、かつて関連業界で働いていた経験があるため、そのエコシステムについては多少の知識がある。初稿を書いたのは2018年頃だが、2020年になった今でも十分に通じる内容だと思う。ここでその知見をシェアしたい。
ライブ配信はなぜ人気なのか?
ライブ配信という業界に対して中途半端な知識しか持たず、低学歴な人や夜職の女性がやる職業だと思っている人は多い。だが、現在の配信業界は独自の生態系へと進化しており、黎明期のさまざまな混乱とは大きく様変わりしている。管理がより厳格になっただけでなく、配信のジャンルもますます豊かになっているのだ。
ライブ配信の特徴
では、なぜライブ配信は人気を集め、あれほど多くの人がギフト(投げ銭)を贈るのだろうか?実は最もシンプルな理由は、配信者が「価値」を生み出しているからだ。視聴者は配信を見るその瞬間にエンターテインメントとしての楽しさを得て、その楽しさのお礼としてギフトを贈り、配信者を応援する。
もう一つの理由は、リアルタイム性とインタラクティブ性(双方向性)だ。ゲーム実況では、視聴者がドネート(投げ銭)する姿をよく目にする。配信者が面白い、プレイが上手い、解説がユーモラスなど、理由はさまざまだ。現在のライブ配信は、その形式がゲーム実況から雑談などのライブ配信に変わっただけであり、本質的にはあまり変わっていない。
多くの配信アプリは、視聴するだけであれば強制的に課金させられることはない(アダルト系を除く)。チャット機能も基本的には誰にでも開放されている。
現実の世界において、赤の他人と無料で楽しくコミュニケーションが取れるというのは、非常に貴重なことだ。街を歩いていて、誰彼構わず笑顔を向けてくれる人などいないだろう。毎日がルーティンワークで、朝から晩まで働く会社員にとって、配信を見てライバーと交流することは、一日の中で最も癒やされる時間なのかもしれない。もっと言えば、大半の人はコメントすら残さず、ただ静かに聴いているだけだったりする。
比較的人気のあるライバーなら、月収10万台湾ドル(約40〜50万円)は軽く超えるし、太客(大口のギフター)がついてくれれば、20万、30万台湾ドルを超えるのも難しくない。
ただ、直面している課題はYouTubeと同じだ。市場が盛り上がっているのを見て誰もがこぞって参入し、市場が飽和し始めると、おこぼれに預かろうとする有象無象の配信者がますます増えてくる。パイの奪い合いになった結果、一般から見ると「どの配信者も退屈そう」に見えてしまうのだ。
そうした小規模な配信者たちは、実力がないか、あるいは単に見つけてもらうチャンスに恵まれず、最終的には静かに去っていくことになる。
また、配信者は女性が大多数を占めるため、男性がこの戦場に参入するのは比較的競争が激しい。そもそもリスナー層自体が男性中心であることに加え、男性ライバーが埋もれずに頭角を現すには、特技やトーク力においてより高いハードルが求められるからだ。
YouTubeと異なる点として、ライブ配信のエコシステムは比較的閉鎖的で、アプリ自体に縛られがちな傾向がある。例えば「17LIVE」でトップの人気を誇るライバーであっても、別のプラットフォームに移籍するとファンが半分以下に激減してしまうことも珍しくない。
マネタイズの仕組み
1. ギフト(投げ銭)を受け取る
大半のライバーは、ギフトを受け取り、プラットフォームと利益を分配(レベニューシェア)することで稼いでいる。しかし、この方法はプラットフォーム側の手数料(中抜き)が多く、太客(パトロン)に出会えなければ、弁当代が1回分浮く程度の収入にしかならない。
2. プラットフォームとの直接契約
プラットフォームと直接契約を結ぶと、通常よりも有利な還元率を得られる。一般的には月間の最低配信時間が義務付けられ、基本給が保証された上で、あとはギフトによって稼ぐ形になる。
3. 事務所(ライバー事務所)経由で契約する
プラットフォームと直接契約を結ぶ場合、細々とした事務手続きなどを自分で処理しなければならない。そこでエージェンシー(事務所)を挟むことで多くの面倒を省くことができる。ただし、事務所にマージンを取られることになる上、優良な事務所を見つけるのは容易ではない。
4. 太客(パトロン)の降臨を待つ
ライバーの収入は往々にして「80対20の法則」に従っている。つまり、収入の80%は上位20%のリスナーによってもたらされているのだ。場合によっては「90対10」ですらあるかもしれない。太客と巡り会うには運が必要だが、当然ながら本人の不断の努力も欠かせない。
太客が現れると、ライバーがその太客とばかり交流するようになる現象が起きるが、冷静に考えればそれも無理のない話だ。配信ルームにいる大勢のリスナー全員に気を配ることなどそもそも不可能だし、挨拶だけでも漏れが出てしまう。それなら、たくさんお金を使ってくれる人を喜ばせようとするのは当然の心理だろう。
5. リスナーとのオフライン・クローズドな交流
ライバーの人気が高まるにつれて、リスナーはより深い交流を求めるようになる。配信界隈で見られるユニークな現象として、ライバーが別途クローズドなグループ(例えばLINEグループなど)を作ることがある。もちろん誰でも自由に入れるわけではなく、多くの場合、高額なギフト(スポーツカー、ヨット、飛行機などの高額エフェクト)を贈ることが入会条件となる。ライバーはこの仕組みを使って、毎月のファン限定オフ会やゲーム大会などを企画し、ファンの定着率(エンゲージメント)を高めることができる。
僕個人としては、これは非公式版の「YouTubeメンバーシップ」のようなものだと感じている。現状はライバー自身の工夫に任されている部分が大きい。
配信エコシステムに関する詳しい考察については、また別の記事で解説する予定だ。
6. メディアデビュー
例えば「17LIVE」ではオーディション企画が開催されることがあり、優勝すれば無料でCDデビューできたり、テレビ番組に出演できたりする。こうしたチャンスによって、元々は素人だったライバーが世間に広く認知されるきっかけを掴むことができる。
ライブ配信が抱える課題・困難
ハードウェア設備の限界
多くのライブ配信アプリはスマートフォンからの配信を前提としている。しかし、スマホのインカメラは画素数が低いことが多く、画質があまり良くない場合がある。YouTubeで見かけるGoProや一般的なカメラの画質と比べると、雲泥の差がある。こだわりのあるライバーは外付けマイクや簡易的なオーディオインターフェースを購入して工夫するが、スマホ単体でそのまま配信している人も多く、配信クオリティに大きな格差が生まれてしまう。
ネットワークの遅延とトラフィックコスト
ライブ配信はリアルタイムで映像を送信する必要があるため、膨大なトラフィックを処理できる高性能で安定したサーバーとCDN(コンテンツ配信ネットワーク)が不可欠だ。これはつまり、莫大なCDN利用料を支払わなければならないことを意味する。すべて自前で構築しようとすれば、その費用はさらに天文学的な数字になる。
また、配信にはどうしても遅延が生じる。遅延が長すぎればライバーとリスナーの体験を損なうし、システムの不安定さから映像がカクつけば、ユーザーは簡単に離脱してしまう。
そのため、スタートアップが多額の資金調達に成功でもしない限り、このようなリスクの高い勝負にはとても手を出せない。個人開発者ならなおさらだ。さらに、配信アプリはハードウェアやインフラの構築だけでなく、最低限の機能としてギフトシステム、美顔フィルター、コメント、レベル機能、いいね演出などを備える必要があり、初期のプラットフォーム立ち上げコストは極めて高額になる。
太客への依存(ハイローラーによる支配)
前述の通り、ライブ配信のエコシステムは太客に依存しがちであり、配信者が太客とばかり絡む状況が生まれやすい。さらにプラットフォーム運営企業の売上までもが一部の太客に依存するようになると、彼らの発言力が強くなり、プラットフォーム全体の運営方針すら左右されるようになってしまう。これはゲーム実況などでは比較的起こりにくい問題だ。
おわりに
以上の考察は、主に一般的な雑談系ライブ配信プラットフォームを前提としたものだ。YouTubeやTwitchなどの配信機能はどちらかといえばドネート文化に近く、本記事の論述にはそのまま当てはまらない部分もあることを付け加えておく。
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